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記事題目

「殖民と宗敎」

作者

和田鼎

雑誌名

『政敎時報』

号数等

9

年月日

1899年5月1日

本文

縦令マルサスの人口論は、論理的誤謬に陥りたるの僻説として敗れたりとするも、領土狭小なる國家に於ける過大なる人口增殖は、茲に殖民の必要を生ずるや明かなり、
思ふにかの殖民者なるもの永く最愛の故山を距れて、遠く天涯の異地に力耕するもの、精神上の不安また洵に甚だしくものなくんばあらず、而してこの不安を医するものは独り宗敎の霊光あるのみ、蓋し人は神霊的動物なり、豈に啻に物質の快樂にのみ滿足するを得んや、必らずやこゝに一の精神的快觀の伴ふものなかるべからず、而して宗敎は精神的快樂を與ふ唯一の機關にして、是によりて殖民者に信仰を與へ、是によりて植民地の秩序安寧を保全し、之によりて益多幸なる社會を形勢ししむるを得、是により殖民の完成を遂げしむるを得べきなり、彼の英の殖民に成功したるは常に殖民をして其耶蘇敎伝道に伴はしめたるに歸因せずんばあらず、而して我邦の殖民なるを見るに、殆んど宗敎を度外に置くものゝ如く、是れたまへ我殖民政策の失敗に失敗を重ねたる所以に非ざるなきを知らんや、

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