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記事題目

「布敎使を欧米に派遣せよ」

作者

桜所市隠

雑誌名

『明敎新誌』

号数等

年月日

1897年9月30日

本文

従來我佛敎各宗に於て布敎を試みたるは、東本願寺に於て上海に別院を建てたるを初として、近來彼の日清戦争に際し、朝鮮國に於て従來衰頽せる所の佛敎寺院を、日本なる寺院の如くせんとし、其の後台湾か我版圖に歸せしを以て、台湾に布敎使を派遣し、大に力を盡くす所ありと聞く、又曩に布哇に本邦より出稼する者多きにより、該島に敎師を派遣せんとする議もありしたり、
然れとも支那に朝鮮に台湾に、布敎の目的を達するにもせよ、固より同色の人にして同く佛敎ある地方に布敎する事なれば、新に佛敎の版圖を拡張したりといふべきほどの事もなし、又本邦人の出稼先に敎師を派するも、其出稼地の國人を目的とするに非れば、唯これ本邦人が他國にて聞法の不便なるものに便利を與ふるに止りて、別段大に布敎の手をひろげたりと云へきほどにあらず、
是に由て思ふに、寧ろ全力を欧米の布敎に用ひ、その派出すべき敎師を特選して、布敎を欧米二洲に試むるを以て得策と爲すべし、何となれば目下英學を脩め英語に通する者を、我敎門に求むるは、支那語韓語に通する者を求むるより易くして、派遣せらるゝものも、欧洲といひ米國といへは、皆朝鮮台湾に往くとは反対に欣然として喜色をあらはさゞるはなかるべし、却説その渡航の後に着手の順序は、従來の振合に寺を建て佛像を安置するか如き外觀を先とせずして、目下彼地に於ける佛敎を研究する東洋學者等に交を結び、彼國には小乗敎を知る人のみにして、未だ大乗あるを知らざる者のみなりといへば、大乗の經典を訳し、大乗の敎旨を説き弘め、佛敎協會といふ如き會員と佛敎の敎旨を講究して、大に佛敎弘通の地をなすにあり
支那朝鮮に布敎し、台湾に寺院を有するより、遥かに勝りたる布敎の効績を収め、欧米をして大乗相応の地たらしむるに至らは、亦甚だ愉快ならしや。

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